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H27 刑法

第1 甲の罪責

 1 甲がC所有のかばんを取り上げた行為について、強盗致傷罪(刑法(以下略)240条前段)が成立しないか。

 (1) 甲は「強盗」(236条1項)に当たるか、「暴行」とは、反抗を抑圧するために向けられたものであることを要する。

甲はCのかばんを取り上げるために上記行為を行っており、反抗を抑圧するためでなく直接財物奪取をするために向けられている。したがって、「暴行」に当たらない。Cの意思に作用するものではない

(2) また、甲はCの意思を介在させることなくCのかばんを取り上げており、恐喝罪も成立しない(249条1項)。甲は、Cの意思に反して、その占有を侵害し、移転させたとして「窃取」に当たる(235条)。加えて、甲の上記行為により、Cは「傷害」を負っている(204条)。

(3) よって、甲は窃盗罪と傷害罪の構成要件該当性が認められる。×

前提に「他人の財物」(他人の占有する他人の所有物)の認識。他人の占有する自己の所有物。いわゆる242条を介した解釈問題。→甲の認識でも窃盗罪の故意が認められるから、錯誤はない。

(4) もっとも、甲はCが甲のかばんを奪ったと勘違いしており、主観的には上記行為は自救行為にあたり、責任故意が阻却されないか。正当防衛を先行させる、自救行為は急迫性を否定した場合にのみ登場。

ア 違法性を基礎づける事実について認識がなければ、反対動機の形成ができないため、責任故意が阻却されると考える。

イ 甲の主観どおり、Cのかばんが甲のかばんだとして考える。Cは甲の返還請求に対して全く取り合わず、ホームに向かおうとしており、Cが電車に乗ってしまえば甲はCを見失う可能性がある。そのため、その前にCからかばんを取り上げる緊急性は認められる。

また、たしかにCは全く甲に取り合っていないことから、甲はもはや実力行使するしかないとも思える。しかし、かばんを無理やり奪えばCに傷害を与える危険性もあり、甲は周りに助けを求める等、より侵害性が軽微な代替手段をとるべきであった。そのため、甲の行為の相当性は認められない。自救行為だと厳しめのため悪くないかもしれないが、正当防衛なら過剰性なしでもよさそう?周りの助け(あるかわからない)ぐらいしか有効的な手段はなさそうだが

よって、甲の主観を基準としても、上記行為は自救行為ではなく、甲は違法性を基礎づける事実について認識があるため、責任故意は阻却されない。

(5) 以上より、甲は窃盗罪(①)と傷害罪(②)が成立する。

2 甲が、「人の看取する」「建造物」たる新薬開発部の部屋に立ち入った行為について、建造物侵入罪(130条前段)が成立しないか。

(1) 本罪の保護法益は立入許諾の自由であり、「侵入」とは管理権者の意思に反する立ち入りをいう。A社のビルは各部それぞれ独立した部屋で業務を行っており、財務部の甲が新薬開発部の部屋に入ることについてA社の推定的同意は認められない上、甲は新薬の書類を窃取する目的で立ち入っており、これはA社の意思に反する。

(2) よって、建造物侵入罪(③)が成立する。

3 甲が新薬の書類を持ち出した行為について、窃盗罪(235条)が成立しないか。

(1) 新薬の書類について甲の占有が認められないか。業務上横領罪(253条)との区別する上で問題となる。要件に引き付けたいけど書きにくいしこれでいいと思う(一応「他人の財物」と思われ)。ちなみに横領罪は成立しえないのでは(委託信任関係なくない?)。

ア 上下主従関係がある場合、上位者に占有が認められ、下位者は占有補助者にすぎないのが原則である。しかし、上位者と下位者の間に高度な信頼関係が存在し、下位者に一定の処分権が認められるなら下位者の占有を認める。

イ A社では、新薬開発部の部長に新薬の書類の管理を任せており、新薬開発部の部長はA社との高度な信頼関係に基づき、一定の処分権が認められているといえるから、同部長に新薬の書類の占有が認められる。甲はA社の社員であり、行為以前には新薬開発部の部長として新薬の書類の管理をA社から任されていたが、行為時には財務部でありA社との間で新薬の書類について高度な信頼関係の存在、一定の処分権のいずれも認められない。新薬開発部の部長ではない。新薬の書類については、甲の後任の新薬開発部の部長に占有が認められる。反対事実として事実上新薬の書類を持ち出せた点を言及すべき。

よって、甲は、新薬の書類について占有が認められない。

(2) 新薬の書類はA社の機密情報が化体したものであり、財産的価値が認められるから、「他人の財物」にあたる。

(3) 甲はA社とライバル関係にある製薬会社に新薬の書類を無断で売却する目的で上記行為を行っており、これはA社に多大な被害を与えかねない。そのため、上記行為は、占有者(部長)の意思に反して、その占有を侵害し、移転させたものとして「窃取」に当たる。

(4) 以上より、甲は窃盗罪が成立する(④)。後述のとおり、乙と共同正犯となる。

4 甲は、①~④が成立し、①と②は一つの行為によるものだから観念的競合(54条1項前段)となり、③と④は通例目的手段の関係にあるから牽連犯(同項後段)となる。これらが併合罪となる(45条前段)。

第2 乙の罪責

1 乙が甲に対して新薬の書類を持ち出すよう提案した行為について、建造物侵入罪及び窃盗罪の共同正犯が成立しないか(60条、130条前段、235条)。

(1) 共同正犯の処罰根拠は結果に対する因果性にあるから、㋐共謀、㋑㋐に基づく実行行為、㋒重大な寄与が共同正犯の要件であり、実行行為を行っていない者についても共同性は成立しうる。 ①共謀、②①に基づく実行行為、③正犯意思(重大な寄与は正犯意思を推認させる事実)に変更。

ア 乙と甲はA社の新薬の書類を乙に売却することを目的で持ち出すことについて意思疎通を図っており、乙は同書類を獲得することで乙社の経営陣に加わることの期待という利益を享受できるから、正犯意思が認められる。乙は、甲がA社の新薬開発部の部長であると認識しているため、業務上横領罪について共謀があったといえる。

イ 甲は共謀に基づいて、新薬の書類を持ち出している。共謀内容とのズレ→射程

ウ 乙は、犯行計画の立案者である上、甲に対して成功報酬として300万円と支部長という地位の確保を約束しているため、甲の精神的寄与に大きく貢献している。よって、乙は重大な寄与をしたといえる。

エ よって、乙は建造物侵入罪及び業務上横領罪の共同正犯が成立しうる。

(2) もっとも、甲の行為は窃盗罪にあたるものであり、乙は重い業務上横領罪の故意で軽い窃盗罪を実現している(窃盗罪は罰金刑が併用されているという点で軽い)。そのため、窃盗罪の故意が認められるかが問題となる。

ア 両罪の構成要件が実質的に重なり合うなら、その限度で反対動機の形成が可能であるから、故意責任を認めると考える。重なり合いが認められるには、構成要件の主要な要素である保護法益及び行為態様が共通していることを要する。

イ 両罪は財物の所有権を保護法益するという点で共通しており、財物を持ち出すという点で行為態様も共通している。そのため、両罪の構成要件は窃盗罪の限度で重なり合うから、窃盗罪の故意は認められる。領得する

ウ よって、乙は窃盗罪の故意が認められる。

(3) 乙は窃盗罪の共同正犯(⑤)、建造物侵入罪の共同正犯(⑥)が成立する。

2 乙は、⑤、⑥が成立し、これらは一つの行為によるものだから観念的競合となる。

第3 丙の罪責

 1 丙が甲のかばんを持ち出した行為について、窃盗罪が成立しないか。

 (1) 「他人の財物」とは窃取の対象だから他人の占有する他人の所有物をいう。甲のかばんは甲の占有下にあったといえるかが問題となる。

ア 占有とは財物の事実的支配をいい、占有事実と占有意思を総合して社会通念に従ってその有無を判断する。

イ たしかに、甲のかばんは手軽に持ち出せ、だれでも利用できる待合室に放置されていた上、領得時、甲の視界に甲のかばんはなかった。しかし、甲のかばんと甲の距離はわずか20mしかなく、甲は1分ほどしか甲のかばんを放置していないため、時間的場所的近接性は認められる。また、待合室はガラス張りであり、甲が振り向けば、甲のかばんを視認することができる。加えて、待合室を利用していたのは甲と丙のみであり、犯行時刻は主要な利用時間帯たる通勤通学のラッシュ時ではないため多くの人が利用するとは考えにくい。

そして、甲は自動券売機で切符を購入するためにかばんをベンチに一時的に置いていたのであって、置き忘れたわけではなく、占有の意思は認められる。

以上の事実を総合すれば、甲は直ちにかばんの事実上の支配を容易に回復できたといえ、かばんは甲の占有下にあったといえる。そのため、甲のかばんは「他人の財物」にあたる。

(2) 丙は甲の意思に反して、その占有を侵害し、移転しているため「窃取」にあたる。

(3) 使用窃盗及び毀棄罪との区別をするため、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、これを利用処分する意思たる不法領得の意思は必要である。

ア 丙は、甲のかばんを持ちだした後すぐに交番に行く行って自首する予定であり、最終的には甲のかばんを返還する意思はあるといえるものの、相当程度利用可能性を害する意思が認められるため、権利者排除意思が認められる。

イ 丙は、甲のかばんから直接効用を得ることを目的とせず、単に甲のかばんを盗んだという事実及びそれによる逮捕から留置施設で寒さをしのぎ生活できるという利益を得ようとするにすぎないので、利用処分意思は認められない。

ウ よって丙は不法領得の意思が認められない。

(4) 丙は窃盗罪が成立しないものの、器物損壊罪が成立する(261条)。すなわち、同罪の保護法益は財物の効用であり、「損壊」とは財物の効用を害する一切の行為をいうところ、丙の行為は甲のかばんの利用を害するものであり、「損壊」に当たる。

よって、丙は器物損壊罪が成立する。自首(42条1項)

以上