氏名黙秘

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H15-2 刑法

1 甲が運転免許証の氏名欄に「甲」と記載のある紙片をはり付けた行為について、私文書偽造罪(刑法(以下略)159条1項)が成立しないか。

 (1) 運転免許証は実社会生活に交渉を有する事項を証明する文書であり「事実証明に関する文書」に当たる。有印公文書

(2) 免許権者がだれであるかは文書の本質的な部分なので「変造」ではなく「偽造」。「偽造」とは、名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいい、作成者とは文書作成の意思主体、名義人とは文書から看取される作成者をいう。名義人は公安委員会。作成者は甲。よって名義人と作成者の人格の同一性に偽りがあるので「偽造」に当たる。本罪の保護法益は文書に対する公共の信用であるから、「偽造」といえるには一般人が真正な文書と誤信する程度のものであることを要する。その際は、文書の通常想定される行使態様も考慮する。

運転免許証は身分証明書として使用することがあり、場合によってはスキャナー越しに運転免許をかざして身分を確認することもある。そうだとすれば、一般人は紙片がはり付けられた状態に必ずしも気づくとは言えない。

(3) 「行使」とは、偽造文書を真正な文書として相手方に認識させ又は認識させ得る状態に置くことをいう。甲は運転免許証を身分証明として使用する目的があるから「行使の目的」がある。

免許証は公安委員会の印章あるので有印公文書偽造罪になる。…①

2 甲が「人の看守する」「建造物」たるX社の無人店舗に立ち入った行為について、建造物侵入罪(130条前段)が成立しないか。

(1) 本罪の保護法益は立入許諾の自由であるから、「侵入」とは管理権者に反する立ち入り行為をいう。甲は詐欺をする目的で同店舗に立ち入っており、これはX社の管理権者の意思に反する立ち入りであるから「侵入」にあたる。

(2) よって、甲は建造物侵入罪が成立する。…②

3 甲が借入申込書を作成した行為について、有印私文書偽造罪が成立しないか(159条1項)。

(1) 借入申込書は、貸金返還義務の発生の効果を生じさせる文書であるから、「権利、義務…に関する文書」に当たる。

(2) 名義人の特定にあたっては、文書の性質上、重要とされる事項を考慮する。

借人申込書は、これをもとに金融会社が顧客の信用性を調査するという性質を有するから、申込人が多重債務者であるか否かは重要な事項である。そうだとすれば、借入申込書の名義人は「多重債務者でない甲」であり、作成者は「多重債務者たる乙こと甲」である。したがって、名義人と作成者の人格の同一性を偽ったとして「偽造」に当たる。

(3) 甲は名義人たる甲の署名をしている。

(4) 甲はX社に借入申込書を真正な文書として提出する予定で作成しているから「行使の目的」がある。

(5) 以上より、甲は有印私文書偽造罪が成立する。…③

4 借入申込書をスキャナーに読み取らせた行為は、借入申込書を真正な文書としてYに認識させ得る状態に置くものとして「行使」にあたるので、甲は偽造私文書行使罪が成立する(161条1項)。…④

5 運転免許証をスキャナーに読み取らせた行為は、運転免許証を真正な文書としてYに認識させ得る状態に置くものとして「行使」にあたるので、甲は偽造公文書行使罪が成立する(158条1項)。…⑤

6 甲がX社に融資を求めた行為について詐欺罪が成立しないか(246条1項)。

(1) キャッシングカードは、これを用いてキャッシングをして現金を引き出せるという点で財産的価値があるから「財物」に当たる。

(2) 欺罔行為とは、交付の基礎となる重要な判断事項を偽ることをいう。甲は、上記偽造文書を用いて、返済意思と能力があると偽っている。返済意思と能力があるかという事実はYがキャッシングカードを交付するかの判断の基礎となる事項であり、甲が返済意思と能力がなければX社は債権回収ができず財産的損害を被るおそれがあるため重要な事項である。以上より、甲の行為は欺罔行為にあたる。

(3) 甲の欺罔行為により、Yは錯誤に陥り、それに基づいてキャッシュカードを交付している。

(4) 以上より、甲は詐欺罪が成立する。…⑥

7 甲がキャッシングカードを用いて「他人の財物」たる現金30万円を引き出した行為について、窃盗罪が成立しないか(235条)。

(1) 甲が返済意思と能力ないのに現金を引き出すことは、X社無人店舗の管理者の意思に反してその占有を侵害し、移転させるものであるから「窃取」に当たる。

(2) よって、甲は窃盗罪が成立する…⑦.

8 甲は①~⑦が成立し、①と④、②と⑤は通例目的手段の関係にあるので牽連犯(54条1項後段)、④と⑤は一個の行為なので観念的競合(同項前段)、④と⑥、⑤と⑥も牽連犯となる。また、③と⑦も牽連犯となる。これらが併合罪となる(45条前段)。